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アップデートを重ねる労働者派遣法の「いま」を知ろう

2025.05.28

アップデートを重ねる労働者派遣法の「いま」を知ろう

派遣労働者の働く環境や権利を守る「労働者派遣法」は、深刻な人材不足に直面し、労働力の確保を課題としている物流業界にも深く関わってくる法律です。
時代の変遷とともに改正を繰り返し、アップデートを重ねている労働者派遣法。
今回は派遣労働者を受け入れる際に特に気をつけたいルールの一部の概要をおさらいしていきます。

労働者派遣法とは?

労働者派遣法が最初に施行されたのは昭和61(1986)年。
それまで職業安定法によって禁止されていた派遣労働という雇用形態を、合法的な事業として行えるように制定されたのが始まりです。
その背景には、テクノロジーの進化やビジネスのグローバル化に伴って生じた、短期的な労働力確保への社会的なニーズがありました。

度重なる改正は当初、人材派遣業の規制を緩和する目的を主とするものでしたが、平成22(2012)年の改正時に派遣労働者の保護を目的としていることが明記され、現在では派遣労働者がより安心・安全に働けるよう、適正な労働環境を守るための法律として確立されています。

それでは、具体的にどのような改正が行われ、遵守するべきルールとなっているのでしょうか。
以下、3つのトピックを挙げて、それぞれの要点を見ていきましょう。

派遣労働者の「3年ルール」

派遣期間制限は、一般的に「3年ルール」と呼ばれ、派遣労働者が同一の組織単位に勤務できる上限を原則3年とする制限のことで、平成27(2015)年の労働者派遣法改正において新設されました。
派遣労働者の雇用の安定とキャリアアップを目的にしており、派遣労働者の勤務期間が3年を超える場合は派遣元企業に雇用安定措置の義務または努力義務が課されます。
雇用安定措置の一例として、就業期間が3年を超える派遣労働者を派遣先企業に対しての直接雇用の依頼等があります。

3年ルールの対象となるのは、派遣元企業と「有期雇用契約」を締結している(契約期間を定めて派遣される)派遣労働者です。
期間を定めない「無期雇用契約」を結んでいる派遣労働者や、働き始めてから3年経った時点で60歳以上の派遣労働者などは対象に含まれません。
すべての業務において、派遣先の事業所単位かつ、派遣労働者個人単位で3年ルールの期間制限が適用されます。

「事業所単位」の期間制限

派遣先の同一の事業所に対し派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則、3年が限度です。
しかし、派遣先が3年を超えて派遣を受け入れようとする場合は、派遣先の事業所の過半数労働組合(組合がない場合は労働者の過半数の代表者)から抵触日の1か月前までに意見聴取を経ることで、受入期間を3年延長できます。

「個人単位」の期間制限

労働組合等からの意見聴取を経て受入期間を延長した場合でも、同じ派遣労働者を「課」や「グループ」単位の同一組織で受け入れ続けることはできません。
(当該の派遣労働者を別の「課」や「グループ」に異動すれば受け入れは可能。また、別の派遣労働者に変わる場合は、前任者と同じ「課」や「グループ」で受け入れることが可能)

3年間をうっかり超えてしまうことのないよう(※)、従業員の勤務期間は厳密に管理していきましょう。
※労働契約申込みみなし制度の対象になる場合もあります。

同一労働同一賃金

「同一労働同一賃金」とは、同一企業・団体における、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
不合理な待遇差を解消する取り組みにより、労働者はどのような雇用形態を選んでも納得のいく待遇を受けられるようになります。
これにより、多様な働き方を自由に選択できる環境が整います。
政府が働き方改革の一環として平成30(2018)年に公布・告示し、労働者派遣法においては令和2(2020)年の改正から施行されました。

この法改正により、派遣元企業は労働者を派遣する際に次の2つの待遇決定方式のどちらかを採用することが義務になりました。

派遣先均等・均衡方式

●派遣先企業の正規雇用労働者と比較して不利や不平等がないよう、派遣労働者の待遇を決定。
●「業務内容」、「責任の程度」、「配置の変更範囲」が正規雇用労働者と同じ場合、派遣労働者であることを理由とした差別的な待遇を禁止する。(=均等待遇)
●「業務内容」、「責任の程度」、「配置の変更範囲」、「その他の事情の内容」を考慮し待遇に不合理な格差をつけることを禁止する。(=均衡待遇)

労使協定方式

●労働者の過半数からなる労働組合または労働者の過半数の代表者と派遣元企業が労使協定を締結。その内容に基づいて派遣労働者の待遇を決める。
●協定では「対象となる派遣労働者の範囲」「賃金の決定方法」「職務内容などの公正な評価により賃金を決定すること」「賃金以外の待遇決定方法」「教育訓練の実施」「有効期間」を定める。

どちらの方式が採られるとしても、派遣先企業には、派遣元に対して次の項目を提示する義務が課されます。

●昇給・退職手当・賞与の有無など、労働条件に関する事項。
●「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」により、不合理な待遇差を解消する旨の説明。

また、比較の対象となる自社従業員への待遇について情報提供が求められ、この情報提供をせずに労働者派遣契約を結ぶことはできません。

加えて、派遣元企業は、短時間・有期雇用労働者の雇入れ時と、当該労働者から求めがあった場合には、その待遇差の内容や理由について短時間・有期雇用労働者へ説明することが事業主の義務になっています。
派遣労働者を新たに受け入れる際には、自社従業員の待遇や労働条件を再確認し、しっかりと備える必要があるでしょう。

特定目的行為の禁止

直接雇用の場合に採用活動の過程で候補者の選考を行うことは当然ですが、派遣労働者の受け入れにおいては事情が異なります。
労働者派遣法では平成11(1999)年の改正以降、派遣先企業が派遣労働者を面接などで選考することは「特定目的行為」(派遣労働者の特定を目的とする行為)として禁止になりました。
※紹介予定派遣の場合は除きます

これは、派遣元企業が派遣労働者の雇用主のため、雇用契約のない派遣先企業にはそもそもテストや面接等の選考を行う権限がないのです。
職業能力の評価は、雇用主である派遣元が行ったうえで人材を派遣する、というかたちになります。

労働者派遣法で禁止されている特定目的行為は次のようなものです。

特定目的行為の例

●事前面接を要請すること、および実施すること。
●事前に履歴書の提出を求めること。
●年齢や性別を限定すること。
●適性検査や筆記試験を実施すること。
●個人情報および業務に関わりのないその他の情報を聞くこと。

派遣労働者が望めば事前に派遣先企業を訪問して業務の内容や職場環境を見学することが認められていますが、これには派遣元の担当者が同席し、特定目的行為が行われないためのサポートが必要です。
派遣先企業としてもその場で禁止事項に抵触することがないよう配慮が求められます。

違反するとどうなるのか

労働者派遣法に違反すると罰則を受けるケースがありますが、違反によってはまず改善や是正の勧告といった行政指導が行われます。
指導に従わず違反行為が改善・是正されない場合、次に待っているのは企業名の公表です。
法令違反による企業名の公表は企業にとってマイナスとなり、最悪の場合、事業廃止命令・許可の取り消しにもつながります。

今回とり上げた3つの禁止事項についてはどうでしょう。
以下に整理してみます。

3年ルールの場合

3年ルールに違反した派遣先企業には行政指導が行われ、従わない時には企業名が公表されることがあります。
なお、派遣元企業には30万円以下の罰金という罰則が設けられている他、行政指導が行われる可能性もあります。

同一労働同一賃金の場合

同一労働同一賃金に直接的な罰則はありませんが、派遣先企業が自社の待遇情報提供義務に違反し、事実と異なる情報を提供したような場合は、指導や企業名公表の対象になることがあります。
また、不合理な待遇格差を放置していると損害賠償などで訴訟を起こされるケースも考えられるでしょう。

特定目的行為の場合

禁止されている特定目的行為が行われた場合も法的な罰則はありません。
ただし派遣先企業に対しては、労働者派遣法違反として当該行為の是正指導が入ります。

まとめ

今回は、労働者派遣法のこれまでの改正点のうち、派遣労働者を受け入れる際に特に気をつけたいルールの概要を解説しました。

労働者派遣法は改正される頻度が高く、内容をしっかり把握しておかないと知らないうちに違反してしまうことが起こり得ます。
企業のコンプライアンスが厳しく求められる今、あらためて理解を深めてはいかがでしょうか。

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