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職場で準備しておきたい災害備蓄品は?万一に備えた企業防災のポイント
2024.12.23

日本では近年、地震や台風による甚大な自然災害が頻発しています。いつ起こるかわからない自然災害から、従業員や企業資産を守るために、職場ではどのような防災対策を講じておけばいいのでしょうか。
本記事では、職場で準備しておきたい災害備蓄品や、企業における防災対策(企業防災)のポイントとともに、災害発生時の初期対応や行動指針について解説します。
企業における「災害備蓄」の重要性
企業には、従業員の生命や地域社会の安全を守る責任があります。大規模な自然災害が発生した際、帰宅困難者へのサポートをはじめ、地域社会の一員として災害の復旧・復興に努めることも求められます。
そこで、まず企業の防災対策として取り組みたいのが「災害備蓄」です。内閣府が発表したガイドラインでは、「一時帰宅抑制における従業員等のための備蓄の考え方」として、企業に3日分の非常用備蓄用品を備えておくことを求めています。また、企業における災害備蓄品の確保については、東京都をはじめとする多くの自治体でも条例として定めています。
たとえば、東京都の「東京都帰宅困難者対策条例」は、2011年に東日本大震災が発生した際、多くの企業で従業員が帰宅困難になったことから制定されました。大規模災害によって公共交通機関がストップした時、多数の帰宅困難者が生じることで起きる混乱や事故を防止するため、「一斉帰宅抑制の推進」や「一時滞在施設の確保」などを図ることを目的としています。
これら国や自治体が企業に求める災害備蓄は、あくまでも努力義務であり、備蓄品を確保していなくても罰せられることはありません。しかし、企業として従業員や地域社会の安全を守るという観点から、災害備蓄は大変重要な対策のひとつといえるでしょう。
準備しておきたい災害備蓄品の種類と量、管理方法など

では、万一の災害に備えて、職場ではどのような備蓄品を準備しておけばいいのでしょうか。ここからは、内閣府や自治体などが推奨する災害備蓄品の種類や量、管理方法や選定のポイントを紹介します。
従業員1人あたり最低3日分の飲料水・食料品
基本的に、飲料水・食料品は「従業員の人数×3日分」用意する必要がありますが、顧客や地域住民の受け入れなども考慮して、やや多めに確保しておくと安心です。また、飲料水・食料品は定期的に賞味期限(保存可能期間)をチェックし、期限が切れる前に消費しながら、その都度新しい品を補充する「ローリングストック法」で管理するのがおすすめです。
【飲料水】
飲料水は1人あたり1日3リットル、計9リットルの備蓄が目安となります。1~2年保存可能な一般的なペットボトルの飲料水でもかまいませんが、長期保存(5~10年)が可能な備蓄用の飲料水なら、ローリングストックの手間も少なくて済むでしょう。
【食料品】
食料品は主食を1人あたり1日3食、計9食の備蓄が目安となります。備蓄用の食料品としては、乾パンやアルファ米、缶詰やレトルト・フリーズドライ食品などが一般的ですが、ガスや電気などのライフラインが止まる可能性もあるため、加熱や調理が不要な保存食を選ぶのがおすすめです。食料品とあわせて、簡易食器や調理器具、割り箸、ラップなども用意しておくといいでしょう。
その他に必要な備蓄品
飲料水・食料品以外に、避難生活で必要な備蓄品としては、以下のような用品・機器類が挙げられます。いずれも非常時にすぐ取り出して使用できるよう、保管場所や取り扱い方法を社内で共有しておくことが重要です。
【毛布などの防寒・寝具用品】
毛布は、最低でも1人あたり1枚用意します。また、アルミ製の保温・防寒シートやマット、寝袋、簡易ベッドなども、冬季の寒さ対策として推奨されています。
【日用品・衛生用品】
非常用トイレ(簡易トイレ)、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、歯ブラシ、生理用品、石けん、洗剤、ゴム手袋、ビニール袋、水洗用の水などが挙げられます。それぞれ備蓄しておく量は、従業員の人数や企業施設の規模に応じて調整します。
【救急セット、医薬品類】
消毒液・包帯・ガーゼ・絆創膏などの救急セットや、目薬・胃腸薬・解熱剤などの医薬品、体温計、不織布マスクが挙げられます。また、持病のある従業員には、普段から処方薬やお薬手帳を常備するよう呼びかけておきましょう。
【災害用備品・機器】
懐中電灯、乾電池、携帯用充電器、携帯ラジオ、カセットコンロなどが挙げられます。停電に備えて、電源確保用の簡易発電機や、手回し発電機も用意しておくと安心です。また、乾電池や機器類は定期的にチェックし、使用可能かどうか確認しておきましょう。
【避難・救難機材、救命用具】
ヘルメット、ライフジャケット(津波の恐れがある沿岸部の職場など)、消火器、土のう、軍手、ロープ、ハシゴなどが挙げられます。そのほか、各種工具類(バール、のこぎり、スコップ、ハンマー、携帯照明器具、ジャッキなど)も、万一に備えて用意しておきたいアイテムです。
災害に備えた職場での取り組みや基本的な対策事例

備蓄品などの準備のほかにも、企業防災のポイントはいくつかあります。ここでは、災害に備えた職場での取り組みや、基本的な対策事例を紹介します。
防災マニュアルの作成・共有
社内における防災マニュアル(防災計画)を作成し、そのなかで災害発生時の対応手順や、従業員の役割分担(総責任者・連絡係・救護係・避難誘導係など)を決めておくことで、緊急時の混乱を避けることにつながります。また、情報収集や連絡を行う手段、緊急連絡網、従業員の避難場所についてもマニュアルに明記し、従業員への周知・共有を徹底することが重要です。
定期的な防災訓練の実施
災害発生時にまず取るべき行動は、従業員一人一人が安全に避難することです。周囲の安全確認や避難ルート、誘導などの訓練を社内で定期的に実施し、いざという時に冷静かつ迅速に対応できるようにしておきます。また、消火器を使った初期消火、応急救護、安否確認などの訓練や、防災用品・機器類の使用方法についての講習も行っておくのが望ましいでしょう。
職場内の安全・減災対策
大地震が発生すると、職場内の什器などが転倒・落下する恐れがあります。これを防ぐために、普段からコピー機やキャビネット、照明機器などを固定したり、窓ガラスに飛散防止シートを貼ったりするなどの対策を済ませておきましょう。また、室内外のドアや避難経路の近くに物を置かないルールを徹底することも大切です。
そのほか、津波や台風などによる浸水被害の危険性がある職場では、「重要な設備を1階や地下に設置しない」「台風が接近する前に、重要な資料や機器を上階へ移動する」などの対策を取ることで、被害を最小限に抑えられる可能性が高くなります。
情報のバックアップ
災害によってサーバーなどの機器が破損した場合、業務に関するデータが消失してしまう恐れがあります。データは企業の大切な資産となるため、その消失により経営全体に大きなダメージを与える可能性も考えられます。対策として、重要な情報は定期的に外部サーバーやクラウドにバックアップを取り、データの復旧を図ることのできる体制を整備しておきましょう。
BCP(事業継続計画)の策定
BCP(事業継続計画)とは、災害やトラブルなどの緊急事態が発生した際に、企業活動の維持・早期復旧を図るための計画・対策を指します。基本的な計画内容としては、自社の活動・生産拠点や仕入れ先が被災したケースを想定し、事業の継続・復旧に向けた代替案を定めておきます。緊急時でも対応力の高い企業であることは、顧客からの信頼・信用にもつながりますので、策定後も定期的に見直しを行い、必要に応じてアップデートしていくことが大切です。
災害発生時の初期対応や取るべき行動について

では最後に、いざ災害が起きた際の初期対応や行動指針について確認しておきましょう。
まず、災害発生時において何よりも優先すべきは「人命」です。東日本大震災では、職場の機器や設備、仕事の資料などを守ろうとして逃げ遅れ、被害に遭ってしまったケースが多く見られました。これを教訓に、災害発生時はもちろん、発生が予測される場合も、以下の初期対応の手順を基本として、従業員一人一人が「人命を最優先」に行動することが重要です。
【災害発生時における初期対応の基本的な手順(行動の優先順位)】
《1》 まず、自分の命を守るために、安全な場所へ自主的に避難する。
《2》 救助を必要としている従業員の初期救出・救護(応急手当)を行う。
《3》 二次的な火災発生を防ぐために、職場の火の始末や初期消火を行う。
《4》 正確な情報をいちはやく入手・提供して、従業員の不安感を取り除き、的確な応急措置をとる。
《5》 職場での初期対応が完了したら、地域住民と協力して、地域の初期消火・救出・救護活動を行う。
まとめ
自然災害は、いつ・どこで起こるかわかりません。事前の準備や心構えができていなければ、いざという時に冷静な行動や的確な対応がとれず、被害の拡大や企業活動の復旧に遅れが生じる可能性もあります。
ぜひこの機会に、職場での災害備蓄や防災対策の重要性について、従業員の皆さんとともに理解を深め、万一の事態に備えた企業体制づくりを進めてみてはいかがでしょうか。