人材
未経験者を自社の戦力として育てるには?人材育成の具体的な手法や進め方のポイントを解説
2024.10.24

人材の確保は、企業にとって欠かせない重要な取り組みのひとつです。しかし、求める即戦力や経験者が自社で確保できず、結果として人材不足が解消できないケースも多いようです。
こうした状況においては、未経験者を採用して「育てること」に目を向けてみるのもひとつの方法です。そこで今回は、未経験者を自社の戦力として育成するための手法や、人材育成の進め方・取り組む際のポイントについて解説します。
人材育成の代表的な9つの手法
まずは、多くの企業で活用されている人材育成の9つの手法と、それぞれの特徴やメリットについて解説します。
OJT(On the Job Training)
新卒者や未経験の新人を対象にしたOJT(On the Job Training)は、仕事に必要な知識・技術・ノウハウなどを、現場の実務を通して習得させる方法です。上司や先輩社員の仕事に同行したり、マンツーマンで指導を受けながら作業を行ったりするなど、現場で実体験を積むことで仕事を覚えていきます。指導する上司や先輩が常時そばにいるため、受講者一人一人の適性やポテンシャルを見極めながら、ケースバイケースで対応できるのがメリットです。
Off-JT(Off the Job Training)
通常業務を通して指導するOJTに対して、Off-JT(Off the Job Training)は、現場や日常業務を離れた環境で実施する育成方法です。実際の業務を始める前に、土台となる知識や理論を体系的に学び、現場の実務に反映させることを目的としています。Off-JTの例としては、オンラインスクールの受講や外部セミナー・研修への参加などがあり、一度に多くの従業員を育成できるのがメリットです。
eラーニング
eラーニングは、インターネット上の学習を活用した育成方法です。受講者の都合に合わせて、企業が導入する教育プログラムやスクールの講習などをいつでもどこでも受講でき、休憩中や通勤中などの隙間時間を利用して学習できるのがメリットです。
自己啓発
自己啓発とは、休日や隙間時間などを利用し、従業員が自ら学んで能力を高めていく方法で、書籍による学習や自主的なセミナー参加などが挙げられます。企業は直接的に関与しませんが、従業員の主体的な成長を促すために、自己啓発にかかる費用や学習時間の支援制度を設けている企業もあります。
ティーチング
未経験者や若手の人材を対象としたティーチングは、経験豊富な上司や先輩が、仕事に関する基礎知識や基本的なルールを伝授する育成方法です。指導者から受講者へ一方的に教える点が特徴で、マンツーマンだけでなく、複数の受講者を対象に実施する場合もあります。
コーチング
コーチングはティーチングとは異なり、対話を通して受講者が自分で答えを見つけられるようにサポートする育成方法です。指導者と受講者でコミュニケーションを取りながらマンツーマンで進めていくため、お互いの信頼関係を構築しやすいというメリットがあります。
メンター制度
メンター制度は、経験の浅い若手の従業員(メンティー)に対してベテランの従業員(メンター)をつけ、幅広くサポートする人材育成のひとつです。メンターは業務スキルの伝授はもちろん、メンティーの精神的なケアやキャリア形成のアドバイスなども行い、その成長を多角的な視点からサポートしていきます。
目標管理制度(MBO)
目標管理制度(MBO)は、従業員一人一人に目標を立てさせ、その達成度に応じて評価する育成制度です。企業側が一方的に目標を設定して評価するのではなく、従業員個人が設定した目標を企業と共有し、「どれだけ達成できたか」を自主的に評価させて管理します。従業員は自分が立てた目標に対して「どうしたら達成できるか」を考え、自ら工夫して業務に取り組むようになるため、自立的な人材に成長することが期待できます。
ジョブローテーション制度
ジョブローテーション制度は、定期的に従業員の所属部署を異動させ、さまざまな職務経験を積ませる人事制度で、広義における人材育成のひとつと考えられています。異なる部署や業務の経験を積むことで、企業全体の仕事を多角的な視点から捉えられるようになり、将来重要な役職に就いたときに、経験豊富なゼネラリストとして組織を統轄する能力が養えます。
階層に応じた人材育成の取り組み方
このように人材育成にはさまざまな手法がありますが、育成対象者の階層(受講者の経験値やキャリア)によって内容を変えていくことが重要です。新入社員と中堅社員では、それぞれに求められるスキルや能力が異なるからです。
ここからは、育成対象者の階層別に人材育成の要点を見ていきましょう。
新卒や未経験の新入社員の場合
キャリアの浅い新卒や未経験の新入社員は、まだ社内のルールや仕事の進め方が分かっていないため、細かいポイントを的確かつ丁寧に伝えるようにします。指導する際には、あいまいな表現や専門的な用語は避け、「OK(良いこと)」と「NG(悪いこと)」の線引きを明確に示すことが重要です。ときには厳しく指導する必要もありますが、注意する際は「何がいけないのか」「なぜいけないのか」を理論的に説明し、指導後は前向きにフォローアップしてお互いの信頼関係を築くことも大切です。
入社初期の育成方法としてはOJTやOff-JTを中心に、新人研修やスキルアップ研修などをバランス良く取り入れた、体系的な教育プログラムを組むのがおすすめです。その後は、ティーチングやコーチング、自己啓発、メンター制度なども活用しながら、個々のモチベーションやエンゲージメントを高められるようにサポートしていきます。
入社して3~5年程度の中堅社員の場合
入社して3~5年程度の中堅社員に対しては、次のステップに進むための取り組みを人材育成の一環として取り入れます。そこで重要なポイントのひとつとなるのが、リーダー職としてのスキルを養うことです。人や後輩を部下につけ、自身で直属の人材を育成させることで、本人のリーダーシップを伸ばしていきます。こうして、若手をけん引する中堅社員のマネジメント力を高めることで、現場の戦力や組織力の強化にもつなげることが期待できるでしょう。
具体的な育成方法としては、eラーニングや自己啓発による学習のほか、目標管理制度やマネジメント研修の実施などが挙げられます。また、OJTやティーチングの指導者として抜擢したり、プロジェクト責任者に任命したりするなど、指示される側から指示する側へとポジションを変えていくことで、リーダー職としての自覚や自信も醸成されるでしょう。さらに、本人の適性や希望に応じてジョブローテーション制度による異動を実施することで、管理職へのキャリアアップを視野に入れた育成にもつなげることが可能です。
人材育成の手順と進める際のポイント
では、人材育成はどのような手順で進めればいいのでしょうか。ここでは、一般的な人材育成の進め方や、各ステップのポイントについて解説します。
《1》人材状況の把握と課題の明確化
最初のステップでは、社内の人材状況を把握したうえで、その課題を目標から逆算して抽出していきます。まずは、どの従業員が何の仕事をしているのか、それぞれのポジションに対して適切なスキルをもった従業員が配置されているのかを、現場へのヒアリングなどを通して確認します。そして、生産性・効率性という観点から人材の管理に問題はないか、経営目標達成のためにどのような人材育成課題があるのかを明確にします。
【スキルマップの活用も】
人材状況の把握や、従業員のスキル管理には「スキルマップ」を活用するのもおすすめです。スキルマップとは、階層や職種に求めるスキルと到達レベルを定義し、従業員の現状のスキルレベルを表にまとめて視覚化したものです。
スキルマップを作成しておけば、各人のスキルを明確にして体系的に捉えられるため、現状に即した効果的な育成や人事評価の目安としても役立ちます。
《2》求める人材像と目標の設定
《1》のステップで抽出した課題をもとに、自社の経営目標を達成するためには、どの部門で・どのような人材が・どのくらい必要なのかを明確にします。その際には、「3年以内にシステム管理に強い人材を10人育てる」「今年採用した未経験者の中から、営業部門のリーダーを5人以上輩出する」というように、求める人材像や目標をできるだけ具体的に設定することで、育成のアプローチや方向性もより見えやすくなるでしょう。
《3》人材育成計画の作成・共有
《2》のステップで設定した求める人材像や目標をもとに、取り組む内容や育成方法などの計画案を作成し、育成担当者の選定も行います。そして、採用する人材育成計画を策定したら、全従業員で計画の内容と目標を共有しましょう。人材育成に取り組むには社内のコンセンサスが不可欠となるため、人材育成の目的や具体的な実施方法などを詳しく伝え、従業員の理解と共感を得ることが重要です。
《4》人材育成の実施・効果測定
人材育成に取り組み始めたら、定期的に効果測定を行い、新たな課題や改善点を探します。人材育成の結果として「従業員のスキルがどのくらい上がっているか」「利益や業績につながっているか」などを確認し、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(確認)」「Action(改善)」のPDCAサイクルを回して、問題があれば速やかに修正することが肝要です。
また、効果測定においては「定量」と「定性」、双方の基準を設けましょう。売上などの数値から業績への影響を定量的に測るとともに、人材のモチベーションや積極性など、数値化できない定性的な基準も設定し、総合的な観点から判断するのがポイントです。
まとめ
以上、未経験の人材を育成する手法を中心に、人材育成の取り組み方や手順、進める際のポイントについて解説しました。
ご紹介したように、人材育成の手法にはさまざまな種類があります。企業の人材状況や課題、階層に応じて人材育成の手法・取り組み方は異なりますが、人材のポテンシャルを引き出し、目標を定めて伸ばしていくことで、未経験者でも経験者以上の活躍を期待することができます。現場の戦力となる人材の育成とともに、さらなる企業成長と組織力の強化に向けて、本記事でご紹介したポイントが参考となれば幸いです。