物流知識

空からの無人配達があたりまえに? ここまで来たドローン物流

2025.07.15

空からの無人配達があたりまえに? ここまで来たドローン物流

空撮による映像表現を大きく変え、エンターテインメントや趣味の分野だけでなく、人が立ち入れない現場の状況視察にも活用されるなど、広く社会に普及するようになった無人航空機=ドローン。
その活躍の場は今や、物資の無人搬送へと広がりを見せつつあります。
今回は、新たな配送手段として期待されているドローン技術の実態と展望を概観していきましょう。

「ドローン」の基礎知識

一般に「ドローン」と呼ばれるのは、「遠隔操作」または「GPSや加速度センサー等による自動制御」で無人飛行が可能な航空機。
プロペラが4つ付いているタイプの機種が最もおなじみかもしれません。
このプロペラの音が虫の羽音を思わせることが、英語で「オスの蜂」を意味するドローン(drone)の名の由来ともされています。

わが国の航空法では、重さ100グラム以上のドローンはラジコン機や農薬散布用のヘリコプターと並んで「無人航空機」に含まれ、法の規制に則して飛行することが求められます。
押さえておきたいポイントは、ドローンを飛ばすには国土交通省への飛行許可申請が必要な空域があること、そして、飛行技術や難易度に応じた「飛行レベル」の分類が存在するということです。

ドローンの飛行レベル

●レベル1:機体が目で見える範囲での操縦飛行……空撮、橋梁などの点検、農薬の散布 等
●レベル2:目で見える範囲での自動操縦による自律飛行……土木測量、小規模インフラ点検、農薬の散布 等
●レベル3:無人地帯(山林・海水域・農用地など)での目視外飛行……山間部や離島への輸送、被災地の状況調査、大規模な測量 等(※飛行経路に第三者が立ち入らないようにする「立入管理措置」が必要)
●レベル3.5:「国家資格(後述)」「保険への加入」「歩行者等の有無を確認できるカメラの搭載」を条件に、レベル3の飛行に必要な「立入管理措置」を省略可能
●レベル4:市街地を含む有人地帯での目視外飛行……物流、建設現場での測量、警備 等(※「国家資格(後述)」「機体認証」などが必要)
 
この分類は、「空の産業革命」を謳う政府が、ドローン技術を多様な分野に利活用することで産業・経済・社会の変革をめざす実現目標として採り入れてきたもの。
操縦や空撮を楽しむ趣味用途、また、より高度な操縦テクニックなどを競う競技用途でも人気のドローンですが、人材不足解消や作業効率改善を課題とするさまざまな産業分野へと用途の可能性を広げてきました。
 
一方で、レベル3.5はレベル3から派生するかたちで2023年12月に新設され、レベル4の飛行は2022年12月に初めて解禁になるなど、「空の産業革命」は未だ道半ばとも言えます。
そんな中、物流業界においてもドローンによる無人配送が従来の運送手段に代わる選択肢として注目され、その実用化への歩みが進められているわけです。

ドローン飛行の物流への展開

EC需要の高まりとともに深刻度を増すドライバー不足、慢性的な交通渋滞による配達時間のロス、求められる環境負荷低減への取り組み。
それら物流業界を取り巻く課題は国家レベルで憂慮されている問題でもあり、その打開策となり得るドローン物流の実用化は政府が強く推進しています。

近年の大きな動きは、ドローン飛行に関する法改正。2022年12月、国家資格である「無人航空機の操縦者技能証明制度」が導入され、資格の取得と国土交通省による機体の認証などを条件に、それまで認められていなかった有人地帯での目視外飛行、すなわち前述した「レベル4」の飛行ができるようになりました。
つまり条件さえクリアすれば、住宅地や都市部などでドローンを用いた物資の配送が可能になるということです。
さらに国家資格の保有者はレベル3.5の飛行も認められ、無人地帯で必要だった立入管理措置の手間なくドローン物流を行うことができます。

また、この改正航空法の施行に続く2023年3月、国土交通省は「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン」を改定した「Ver.4.0」を公表しました。
ドローン配送のビジネス展開が活発化していくことを見据え、ドローンの導入方法や必要な手続き、飛行上のルールなどをまとめたものの最新版です。

「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン」では、実際にドローンを物流に用いた具体例を「事例集」として数多く紹介。
これらは政府が事業者や自治体と連携して行っている実証実験で、過疎地や山間部・離島での買い物支援・物資の供給だけでなく、レベル4飛行を想定した都市圏でのデリバリーなども含まれてきています。
わが国のドローン物流は今、こうした実証を各地でつみ重ねながら、社会的実装に向けて前進していると言ってよいでしょう。

ドローン物流のメリット

ここで、ドローンの導入によって物流業界のどのような課題解決が期待されているかをあらためて整理しておきましょう。

慢性的な交通渋滞の緩和

物流手段が自動車中心のままでは、運ぶものや回数が多くなるほどそれを運送する車輌も増えてしまい、交通渋滞の慢性化につながります。
渋滞に影響されないドローン配送が普及して物流車輌の走行台数が減少すれば、燃料消費やCO2排出量を抑えられ、ひいては渋滞そのものを緩和できるかもしれません。

宅配にかかる時間の短縮

ドローンは交通状況や地形に関わらず、上空を最短距離で目的地まで移動します。
レベル4飛行ではその強みが都市部などの有人地帯でも発揮されるわけですから、より効率よく、短時間で荷物を届けられるようになるはずです。

ドライバー不足の解消

ECの普及によって宅配需要が増加している一方、物流ドライバーの不足は業界に大きく影を落とす問題です。
現役ドライバーの高齢化や少子化を背景とする新たな人材確保の難しさは根深く、さらに2024年4月からはドライバーの時間外労働時間の上限規制も加わって、見通しは明るいとは言いきれません。
ドローンによる無人配送には、この難題を解決に向かわせる方策のひとつとして期待が寄せられています。

過疎地や被災地への物流の安定

地方の山間部や離島などでは交通網の整備が充分でなく、物が届きにくい地域がいまだに残っています。
特に高齢者を中心に、日常のちょっとした買い物も自力では難しいケースが少なくありません。
ドローンを配送に用いることで、トラックが入れないようなエリアにも空輸が可能に。
同じノウハウは、交通が断たれてしまった被災地への対応にも応用できるでしょう。

ドローン物流の課題

反面、ドローン物流には依然として乗り越えなければならない課題や対応策の必要なリスクが存在することも確かです。
以下に主なものを挙げていきます。

事故を起こす危険性

ドローンは気象条件の影響を受けやすいため、風雨が強い状況では安全な飛行が難しく、機体の破損や墜落事故のリスクが拭えません。
操作ミスによる事故もないとは言えず、万が一人や物などを傷つけてしまうような事態になれば、損害賠償が生じることは避けられないでしょう。

盗難にあう可能性

無人配送ならではのリスクですが、配送の途中で荷物が盗難にあう可能性があります。
また、飛行を制御するシステムが脆弱だと、ハッカーに乗っ取られて機体ごと盗まれることも起こらないとは限りません。

プライバシーやセキュリティ上の懸念

カメラを搭載したドローンが有人地帯である都市部を飛行するとなると、個人のプライバシーやセキュリティに関わる機密を侵害してしまうことが懸念されます。
個人情報および機密情報をどのように護るか、そしてドローンを不正な目的に利用することをいかにして防ぐかは重要なテーマです。

この他、たとえば「長時間の飛行が想定される場合にバッテリー交換や充電をどう行うか」「誤配を防ぐため、GPSによる位置情報の誤差をどこまで減らしていけるか」といった技術的な問題や「積載量が限られ、一度にたくさんの荷物を運べないこと」なども課題とされています。

まとめ

今回は、近い将来に本格的な実用化が見込まれるドローン物流をめぐり、ドローンの基本的な知識を踏まえながら、物流業界への展開の現況、そして期待される効果と課題点を見てきました。

ビジネスとして定着するまでに議論されるべき課題は少なくありませんが、ドローン技術が物流業界にとって大きな希望であることも疑いありません。引き続き今後の動向から目を離さずにいたいところです。

  • Facebook
  • LINE

お客さまの理想の物流現場を、私たちが実現します。

人材にお悩みの企業様は、
お気軽にご相談ください。